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2025.04.28

【漫画家・佐藤秀峰氏 × OSTech内定者企画】「生き方を選択できる」点で、エンジニアと漫画家は似ていますね

『海猿』『ブラックジャックによろしく』など人気作品を世に送り出してきた漫画家の佐藤秀峰さん。今回、OSTechグループ(以下、OSTech)の2025年の新入社員へ向けた応援CM企画※に協力していただきました。生成AIを使って、佐藤さんの漫画のタッチで新人たちの姿をアニメーション化。OSTechメンバーとしての第一歩を踏み出す若者にエールを送ってくれた佐藤さんに、エンジニアに対するイメージや、「AI時代の漫画家」などについて語ってもらいました。

PROFILE

  • 佐藤 秀峰(漫画家)
    1973年北海道帯広市生まれ。佐藤漫画製作所代表。
    代表作「海猿」、「ブラックジャックによろしく」、「特攻の島」、「Stand by me 描クえもん」(連載中)

※「全国の新入社員を応援するCMを作ろう!2025」について

プロジェクト特設LP:
https://www.ostechgroup-recruit.jp/nt_webcmpj_2025/

「好きな仕事」だからこそ、しんどさもある

このたびは、OSTechの2025年新入社員向けの企画にご協力いただき、ありがとうございます。新人たちの多くはエンジニアとして、社会に出ていくわけですが、佐藤さんは、ものづくりに関わるエンジニアについて、どのようなイメージをお持ちですか。

今回の企画に関わっている中で、OSTechさんのエンジニアが、「さまざまなメーカーさんやIT企業の現場で仕事に携わっている」と聞きました。ひとつの現場でずっと働くこともあれば、いろいろな現場を経験することもできるのだと。それは大変な面もあるでしょうが、一方で「おもしろいな」と思いました。さまざまなキャリアを積んで、スキルをアップデートできる。1つの分野でつまずいたとしても、別の分野でやり直せばいい。「いろいろな生き方を選べる」という点で、おもしろいと感じました。

漫画家はどの媒体で作品を描いても自由です。いろんな出版社、雑誌で作品を連載してもいいし、出版社を介さずにWeb発信で読者へ作品を届けることも可能です。僕自身、それを実践しています。いろいろな表現媒体を選択できることも、ある意味で「生き方を選択できる」といえますね。その点では、エンジニアの方と自分は似ているのかなと思いました。

今回の企画に協力いただいたのは、エンジニアという職種を選択したOSTechの若手に対して、「応援したい」という気持ちがあったからでしょうか。

そうですね。「好きな仕事」を自分で選択した人たちだからこそ、がんばってほしいと思っています。なぜなら、「好きなこと」を仕事にした時には、楽しさがある反面、しんどさもあるからです。僕は、「漫画を描く」という、自分が好きなことを仕事にしています。でも、当然、好きなことを仕事にしたとしても、嫌な面や大変な面もあるわけです。

たとえば、週刊連載では締め切りに間に合わせるために、背景を描いたり、仕上げ作業をしてくれるスタッフが必要です。もともと僕は集団作業が苦手で、1人でやりたいタイプ。だからこそ、漫画家という職業を選んだのに、他人とチームを組んで仕事を進めなければいけない。また、スタッフが急に辞めてしまい、その業務を自分が引き受けなければいけない時もあります。経理スタッフが退職した際は、大変でしたね。でも、おかげで経理ソフトやExcelが使えるようになったので、「まあ、いいか」とも思いますが(笑)

「なくてもいい」漫画を「必要なもの」に変えたい

佐藤さんは漫画家として、海上保安官や医師といった、使命感を持って働くエキスパートを描いた大ヒット作品を生み出してきました。エンジニアも漫画家もエキスパートだと思いますが、共通項はありますか。

「責任感を持って仕事に取り組む」という点は、エンジニアも漫画家も海上保安官も医師も変わらない気がしますね。たとえば、漫画家の場合、自己実現のために「描きたいこと」と、社会から求められる「描いてほしいこと」とが相反する時もあります。作品をヒットさせるために、編集者から「こう描いてほしい」と注文されたけれど、自分は描きたくない、とか。

そういう時に、僕は編集者から求められる枠の中に収まるように描きつつも、自分が「絶対に描きたくない」ことは譲らない。自分なりの「筋を通す」ことにしています。それがエキスパートとしての矜持(きょうじ)だと思います。エンジニアのみなさんの仕事でも、そういう場面があるかもしれませんね。

好きなことを仕事にしていても、そうした緊張感のある場面が出てくるわけですね。ほかに「エキスパートとしての使命」を感じることはありますか。

多様なエンターテインメント作品が世の中にあふれる中で、「どうしてもなければいけない」とは言えない「漫画」というジャンルを、それでも「誰かにとって必要なもの」にしていくためには、「どうしたらいいだろう?」とはよく考えます。漫画って、世の中になくてもいいものだと思うんです。その「別になくてもいいもの」に対して、「どうやって意味を生じさせようか」ということですね。

同じエンターテインメントの世界でも、アニメとは違って、漫画は絵が動かないし、色も白黒だし、音もついていません。インターネット上で、無料で閲覧できる作品も豊富にあるアニメに対し、漫画を読むには1冊、数百円も払う必要があります。こう考えると、ユーザーの受け取り方という点で、アニメに比べて、漫画はどう考えても劣勢ですよね。それでも、漫画に存在意義があるとすれば、それは何なのか。

難しい問いですね。佐藤さんなりの回答を聞かせてください。

一つには、「疑似体験できるツール」という意義があると考えています。現実では、命を落とすような危険な場面。それをリアルに体験するわけにはいかないですよね。漫画であれば、表現されている世界と読み手がほどよい距離感を持ちながら、安全に疑似体験できる。それが漫画の存在意義ではないかと。

映画や音楽の場合、作品に割り当てられた時間の中で、観客は一方的にそれを受信するしかありません。漫画や小説は、鑑賞しながら立ち止まって考えたり、ページを戻って読み返すこともできます。受け手が作品に能動的に参加できるということだと思います。どちらが優れているということではないのですが、本は読者の自由をより尊重できるのかなと。

僕の描く漫画は、「完全な作り物のファンタジー」ではなく、あくまで「現実を模した世界」というところから外れないようにしています。現実そのものではないけれど、現実をフィクションに置き換えることによって、かえって、人間の「喜び」や「悲しみ」といった感情が、より伝わると信じて描いています。

まずは「量」をがんばることがスタートラインに

現実を模した世界を描き切れるような「技術力」を、どのように高めてきたのか、佐藤さんの努力や工夫を聞かせてください。

まずは「量をがんばる」という体験が必要だと思います。よく「1万時間の壁」と言われますね。一人前のスキルを身につけるには、それだけの努力の時間が必要ということです。何も考えずに、ひたすら写経をするみたいなものかもしれません。僕もプロになるために、たぶん1万時間以上の時間を費やして漫画を描いてきました。デビュー前は、作画スタッフの仕事をしながら、とにかく描いていましたね。

そうすると、次第に作画の仕方を体が勝手におぼえていくのです。まるで、自動車の運転に慣れていくと、交差点に近づいたら、意識しなくても自然とウインカーを出せるようになっていくように。その段階になって初めて、「もっとおもしろいストーリー」などを考える余裕が出てくるようになります。ものづくりに携わる者にとって、そうした修行の時間は重要だと思いますね。

ただ、何も考えずに修行すると、終わりが見えずに疲弊して、漫画が嫌いになってしまうかもしれません。そこで、僕は少しでも速く、効率的に描けるように工夫しました。たとえば、完成図を頭の中でイメージして、そこから逆算して段取りを考えていくのです。そうした効率化はエンジニアの世界でも、有効かもしれませんね。

「ブラックジャックによろしく」の主人公 斉藤 英二郎

AIが台頭する未来でも僕は漫画を描いていく

そうした人間的な努力が将来、「無意味になるかもしれない」と取りざたされています。漫画家やエンジニアといった「新しいものを生み出す仕事」の未来像について、佐藤さんはどのように考えていますか。

AIによって淘汰されてしまう仕事は確実にあると思います。でも、AIによって漫画家という職業がなくなっても、「それはそれで仕方ないんじゃないか」と思いますね。なぜなら、それは「世の中に必要とされなくなった」ということだと思うからです。

ただ、すぐに漫画家の仕事がなくなるわけではないとも思います。AIは今のところ、「既存の情報をたくさん集めて、その枠の中で物語を組み上げる」ことはできますが、新しい物語を創造することはまだ難しいですね。「視線誘導」という漫画の技法があります。吹き出しやキャラクターの顔など読者の目を引きやすい要素を効果的に配置して、漫画を読みやすくするテクニックです。こうした漫画家の頭の中にある技術はまだAIにとっては苦手な気がします。

AIが発展し続けた先に、漫画は残っていくんでしょうか。

それはわかりませんが、僕は自分の仕事がたとえ淘汰されたとしても、漫画を描いていくと思います。「商業的に成り立つか」はそれほど大事なことではなく、自分が「描きたい」と考える限り、描いていくと思います。なぜなら、それが僕のやりたいことだから。たとえば、技術の発展した未来、人間は何もしなくても生きていけるようになるかもしれません。それでも、「自分で捕った魚をさばいて食べたい」という欲求は残るでしょう。それと似ているかもしれませんね。

最後に、OSTechのエンジニアに向けてメッセージをお願いします。

「自分の生き方」や「どう仕事と関わるか」を自分で選択できるのがOSTechという会社だと思います。エンジニアは、自分で自分の仕事をおもしろくしていける職業だと思うので、ぜひ楽しんでほしいですね。

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